恐る恐る 壮馬の後を 付いて歩く夏美。


駅の パーキングに停めた車。

助手席のドアを 壮馬は 先に 開けてくれる。
 

「ありがとうございます。」

夏美が 乗り込むと 壮馬は 静かに ドアを閉めた。
 

「明日は 休みだから。ゆっくり 食事しましょう。帰りは 送りますので。」


壮馬の 真意が わからない夏美。



少し不安気に 壮馬を見ると、壮馬も ぎこちない笑顔を 夏美に返した。

会社では 見たことがないような、壮馬の 緊張した表情に 夏美は 最悪の事態を考える。
 

「あの。もしかして私 クビになったりするんですか。」

車が走り出すと 堪えきれずに 夏美は聞く。


壮馬は一瞬、驚いた顔で 横を見た。



すぐに 視線を 前に戻すと 明るい声を上げて笑った。
 

「まさか。そんなこと ある訳ないでしょう。」

壮馬の少しくだけた口調に
 
「でも。」

と夏美は 不満そうに 壮馬を見る。
 


「全然違います。仕事の話しじゃなくて。個人的なことです。」

と壮馬は言った。


信号待ちで 夏美を 見る壮馬の 温かい視線に 夏美は 戸惑ってしまう。


まるで 恋人を見るような目だから。


夏美は 俯いて そっとため息をつく。



研究室と違い 居心地の悪い思いを 吐き出すように。