「…今夜は満月ですね」
「ああ、そうだな」
私が伊江宗さんの横に立つと、伊江宗さんは自分の羽織を私の肩に掛けた。
「ありがとうございます…」
なんて言いながら、そうしてくれることは分かっていた。
でも、相変わらずのぶっきらぼうな優しさに、私は嬉しくなって笑みを零した。
「お主が来た日も、満月じゃったな」
「はい。ここで同じように一緒に月を見ていましたね」
「ああ。…もう、今日で終わりか」
「一緒に過ごす日のことですか?」
「ああ。明日から、また少し寂しくなるな」
「えっ?」
予想外の台詞に、伊江宗さんの顔を見ると、伊江宗さんは飄々としていて、変わらず月を眺めていた。
「寂しいんですか?」
「まあ、少しうるさいがな。いらぬ騒がしさでも、なくなると活気がないからな」
「…それ、褒めてます?けなしてます?」
「さあな」
私が目を細めて睨むと、伊江宗さんは意地悪に微笑んだ。


