「か、からかわないでください!」
「からかってなどおらぬ」
「だとしたら、もっとやめてください!」
朝っぱらから、心臓に悪すぎる美顔と台詞だ。
ドキドキしている私の髪に、すっと自然に添えられた右手に、ビクッと肩を震わすと、佐江宗さんは眉を下げて私の顔を覗き込み、
「…昨夜は、寝付けなかったのか?」
と言った。
「えっ?そんなひどい顔してます?」
「いや、そうではないが…」
佐江宗さんはそう言うと、ちらっと視線を動かした。
移った視線の先を見ると、そこには私が寝る前に畳んで置いた、伊江宗さんの羽織があった。
「あ、いや、それは…」
「伊江宗と話していたのだろう?これは伊江宗の羽織じゃ」
佐江宗さんは羽織を手にしてそう言った。
一緒に過ごしているのは佐江宗さんなのに、伊江宗さんと夜に二人で話していたなんて、きっと失望される。


