むしろ、チクチクとした言葉の中に、優しさがあって、今も、私のために羽織をくれた。
私が戦のことを思い出さないように、しょうもない未来の話を聞いてくれた。
自分が殺した誰かの大切な人のことを思い、心を痛めている。
そして、満月の晩には、いつもお母さんのことを思い出し、あんな悲しそうな顔をして月を眺めている。
不愛想で気持ちを伝えるのが少し下手な人なんだろう。
だからひどい人に見えるけれど、本当はとても優しくて、とても繊細な人なんだ。
なのに私、誤解して、あんなひどいこと言っちゃった。
昼間の喧嘩を思い出し、私は羽織をぎゅっと握った。
私が殺されそうになった時も、羽織を掛けて安全なところに連れて行ってくれた。
あの優しい温かい手で、助けてくれた。
…伊江宗さんに、謝らなくちゃ。
私は返した踵を再び戻し、伊江宗さんの方に振り向いた。


