「……悪い。そんな顔をさせたかったんじゃなくて…その、無理はしてほしくなかったのだ」
伊江宗さんはバツが悪そうに頭を掻きながら、
「儂は本当に大丈夫じゃ。独りで月を見上げるのは慣れておるし…。それに今宵は、いつもより楽しかった。お主の面白い話を聞かせてもらったからな」
「伊江宗さん…」
「だから、もうお休み。明日、佐江宗と未来へ戻る方法を探すのだろう?寝ていなかったら体が持たんぞ」
「そうですね…じゃあ、先に寝させてもらいます」
「ああ。羽織はそのまま着て帰れ」
伊江宗さんはやっぱり不愛想な表情でそう言って、月を見上げた。
私はその姿を見て、部屋に戻ろうと踵を返しながら、ふっと考える。
私は、伊江宗さんのことを勘違いしていたのかもしれない。
確かに、言葉も冷たくて、笑わないし常に不愛想だ。
だけど、佐江宗さんが言っていた通り、悪い人ではない。


