伊江宗さんは何も話さず、でも私から離れることもなく、ただまた満月を見上げた。
私も伊江宗さんの真似をするように月を見上げ、しばらく、二人で静かに夜空を見つめていた。
「…未来は、」
「えっ?」
唐突にぽつりと呟いた伊江宗さんに視線を向けると、伊江宗さんは月を見つめたまま話を続ける。
「未来の夜空は、これとあまり変わらないのか」
「夜空…?あ、そう、ですね……ちょっと違うかも」
「どこが違うのだ?月がないのか?」
「月は、あります。でも、こんなくっきり綺麗には見えないかな」
「そうか…でも、月はあるのだな。良かった」
ふっと笑った伊江宗さんの横顔を見て、とくんっと胸が跳ねた。
初めて笑った顔を見た気がする。
佐江宗さんとそっくりなはずなのに、どこか違うその笑顔は、佐江宗さんとは違った美しさがあった。
「月、好きなんですか?」


