私は月ではなくて、その姿に目を奪われ、恍惚と彼を見つめる。
その視線に気づいたのか、月を見つめていた彼は私の方を向いて、少し驚いたような顔を見せる。
私も彼に気づかれたことで、はっと我に返り、慌てて意味もなく白い寝間着を整えた。
そしてゆっくりともう一度彼に目をやると、彼は手をくいくいと動かし、こっちに来るように合図した。
「えっ……」
戸惑いながらも、私はゆっくりと、少し離れた彼の部屋の前まで廊下を歩いた。
「……。」
彼の隣に来たのはいいものの、昼間のことも相まって、何を言えばいいのか分からず、黙って立っていると、
「寒くはないか」
と思いがけない言葉を掛けられた。
まだ春先だし、確かに、薄い着物一つでは肌寒さを感じる。
「ちょっと寒い…」
「…そうか。では、これを着ておけ」
そう言うと、彼は着ていた羽織を脱ぎ、私の肩に掛けた。


