でも、どちらかと結婚しないといけないなら、佐江宗さん一択なのは事実で、私も上手い言い訳ができなかった。
「…そうか。なら、そうすればよい」
伊江宗さんが低い声でそう言った。
「おい、伊江宗」
「儂も、こんな馬鹿げたことをするつもりはないからな。しかも、こんな我の強い女となど、願い下げじゃ」
「伊江宗、それは言い過ぎだぞ!」
「じゃあ、儂は急いでるからもう行く」
伊江宗さんはそう言うと、私の前を横切って歩いて去っていった。
「なんなの…あいつ」
そう膨れっ面で言いながら、ほんの少し胸が痛かった。
伊江宗さんを傷つけてしまったような、そんな気がしたから。
「すまぬな、七瀬。伊江宗は昔からああいうやつで…悪いやつではないのだが…」
佐江宗さんは頭を掻きながら困ったように笑った。
「佐江宗さんが謝るようなことじゃないですよ。私もつい言い過ぎちゃったし…」


