「伊江宗、なぜ何も言わなんだ?」
「もし儂が口を開いたら、父上を怒らせてしまうからな」
「はあ……確かに、その点においては賢明であった」
佐江宗さんは頭を搔くと、私の方を見て困ったように笑った。
「かたじけない。少しの間、付き合ってくれぬか?お詫びに、儂と伊江宗が未来への帰り道を一緒に探すから」
「なぜ儂もなのだ?」
「もとはといえば、お主が巻き込んだのじゃぞ?当たり前だ」
チッと舌打ちをして、伊江宗さんは腕を組んだ。
「あの、私……」
「そういえばお主、名前はなんと申すのだ?」
「あっ、七瀬(ななせ)です…」
「七瀬か、良い名だ」
佐江宗さんがそう言って微笑んだ顔があまりに整っていたせいで、子どもなんて絶対産まないって言えなかった。
思えば、この時、もっとはっきり言っていたら良かったかもしれない。


