「馬鹿みたい」
気づけば、これが口癖になっていた。
眠りにつく前、私の部屋のある二階からは、はっきり聞こえる。
一階のリビングで、両親が口喧嘩をしている声と、それに反応する犬の鳴き声。
耳を閉じても、聞こえてくる。感じる。
学校だって、何もない。
三年間ずっと好きだった彼は、この前、彼女が出来たと嬉しそうに友達に報告していた。
私はそれを、彼の下駄箱に入れようと持っていたラブレターを手に、廊下の柱の裏側で聞いていた。
一つ一つは確かに、小さなことだった。
でも、その一つ一つが、妙に心の奥を突いてくる。
「馬鹿みたい」
こんな夜更けに近所のことも気にせず、大声で喧嘩をし続ける両親に言ったのか、それとも何も上手くいかない私に言ったのか。
そんなことを考えている内に、私はいつの間にか眠っていた。
そうして、また朝が来る。
…来るはずだった。