アスファルトの上には穂波のであろうランチバッグが転がっていた。
かわいいキャラクターのお弁当袋。
顔を上げることができなくてそれを凝視する。
「環が陽太を……?」
声を震わせながら穂波がつぶやいた。
このままじゃいけない。
なんとか顔を動かして、穂波の様子をうかがった。
今にも泣き出しそうなほど眉を下げた表情。
どうしよう……。
聞かれた。
どうしよう、どうすればいいの。
ドクドクと変に高鳴る鼓動。
必死にどう言おうか頭をフル回転させているけど、なにも浮かばない。
動揺が顔に出ないようにすることで精いっぱいだ。
美保は気まずそうな顔でわたしに「ごめん」と耳打ちした。
「あたし、無神経なこと……っしてた?」
「……っ」
ほんとは言いたい。
でもわたしの中のなにかがそれを邪魔する。
沈黙を肯定と捉えたらしい。
穂波はそのままどこかへ走っていった。
取り残されたランチバッグがやけに寂しげで、なんだかとてもいけないことをしたような気にさせられる。
どうしよう……。