「高瀬くーん、隣のクラスの女子が呼んでるよー!」
「あー……、うん」
明らかにやる気のない返事。
サッと立ち上がり、ヒラリとわたしたちの横を通って高瀬は行ってしまった。
だけどなにを思ったのか途中で振り返った。
「待っててね、たまちゃん」
ニコッと愛想よく笑って今度こそ高瀬は教室を出て行く。
なにそれ、ズルい。
いやいや、すごく意味不明。
「相変わらずモテるね、高瀬くんって。っていうか、『待っててね』ってなにー? 明らか環のこと意識してたよね!」
「や、やめて〜! そんなんじゃないから」
「高瀬くんって、ふわふわして愛想がいいように見えるけど誰にも執着しないっていうか。やんわり突き放してくる感じがまた、たまらないとか言われて人気があるんだよね」
「なにそれ。突き放してくる? 暑苦しいのまちがいじゃなくて?」
「ないない。基本的に面倒くさがりだし、高瀬くんから女子に話しかけるのあんまり見たことないもん」
へえ、そうなんだ。
美保って高瀬のことよく知ってるよね。
いや、誰でも知ってるのかな?
そう考えたらわたしって、高瀬のことなにも知らない。
今まで知ろうともしてなかった。
「いいなぁ、環は。あんな王子様みたいな人に気に入られて」
「冗談でもやめて!」
思いっきり否定する。
授業が始まっても高瀬は戻ってこなくて、その理由なんて考えたくもないけど、浮かんだのはさっきチラッと見えた女子の真っ赤な顔。
調子のいいことを言って甘く迫ってたり?
……ありうる。