「昨日は図書室でごめんね」

「なによ、急にしおらしくなっちゃって」

「ついつい、失恋して弱ってるたまちゃんの傷につけ込みました」

ついって……。

そんなノリでキスする人なんて高瀬ぐらいだよ。

「真っ白なたまちゃんには慰めの意味も伝わってないし、キスは刺激が強すぎたよね」

「は、はぁ……?」

「反省してます、ほんと」

そのときサーッと強めの風が吹き抜けて髪を揺らした。

「でもさぁ、あんなヤツのどこがいいわけ?」

さっきまでニコニコしていたかと思えば、今度は抑揚のない声。

「やっぱ顔? 西河、だっけ?」

「……っ」

なにも見えてなさそうだった高瀬に気づかれていたなんて最悪だ。

「あんなヤツじゃなくても、世の中には男なんていっぱいいるじゃん。俺とか」

最後の言葉はもちろんスルーするとして、思いっきり怪訝な顔で高瀬を見れば。

「あんなヤツやめて、俺にしなよ」

「…………」

ビックリしすぎてもはや、言葉が出なかった。

いや、まぁ、冗談だとはわかるけど。

「あはは、やっぱだめ?」

だらしなく頬をゆるませて、軽々しく言う高瀬。

ダメダメ。

鵜呑みにするな。

いちいち気にしてたら身が持たない。

「俺はまぁ、わりと本気で言ってるんだけど」

「か、からかわないでよ」

高瀬にはわかんないよ。

「人を好きになったこともないくせに……簡単に言わないでっ」

そうだよ。

好きになったことがないから、『つい』キスなんて。