「なんで、こんなことするの?」
「いっぱいいっぱいになってるたまちゃんが見たいから」
「なに、それ……っ」
「俺のことで頭をいっぱいにしてよ」
ずるい。ずるすぎる。
もうすでにいっぱいだよ。
高瀬しか見えてない。
甘くて、ずるくて、独占欲が強すぎる。
だからといってわたしのこと好きじゃないくせに、そういうのほんとずるい。
「止まったみたいだね、鼻血」
優しくそんなふうに言って、目の前でにっこり。
まるでさっきの大胆発言なんてなかったかのように、普通だね。
ドキドキしてるのはわたしだけみたい。
水道で手と顔を洗いながら、体の火照りを冷ます。
ジャージについた血を洗おうとして上を脱いだら、暖房がついてない保健室は少し肌寒かった。
ぶるっと身震いしながらジャージを洗っていると、後ろからフワッと肩になにかがかけられて。
「俺の着てていいから」
鼻をかすめたのはシトラスの香り。
それが高瀬のジャージだということはすぐにわかった。
「高瀬が寒いんじゃ……?」
「俺はへーき。暑がりだから」
お礼を言って高瀬のジャージに袖を通した。
「うわぁ、見事にブカブカ」
裾はお尻まで隠れちゃうほど長くて、袖口も十センチ以上あまって手が出ない。