「車イスは、岡本さんと違うよ。川田さん」

後ろから、同じ中介の吉井さんの声が聞こえてきたけど、私は振り返ることなく岡本さんのシルバーカーを持って戻った。

どうせ竹野さんは、岡本さんを車イスに乗せようとしたんだろう。

「岡本さん、これ持って立てます?」

シルバーカーのブレーキを掛けて、私はシルバーカーの持つ部分をトントンと叩いた。

岡本さんに立ってもらって、素早くパットを付けると、ズボンを上げる。そして、岡本さんを連れて、浴室を出た。

外介を終えた後は、遅番さんのオムツ交換を手伝ったり、コール対応や、利用者さんを離床したりして、今日の勤務は終了した。



「ただいま~……」

「おかえり~!」

家に帰ると、真夏がリビングから顔を出す。

「あ、初夏。良いところに帰ってきた」

リビングに入ると、お母さんは私を見つめた。私は首を傾げながら、かばんを片付けて席に着く。

「……実は、真夏ね。足を骨折してしまって……」

お母さんがそう言うと、真夏は右足を出した。右足には、包帯が巻かれている。

「完治するのに、最低でも3か月はかかるって……2か月後には、団体戦の大会を控えてるのに……」