そして、俺の中にも退職してからずっと温めていた一つの思いが彼の決意によって大きく膨らんでいた。

「俺も会社を立ち上げる。海外に日本の食や酒をもっと広めていきたいと前々から思っていたんだ。その上で全面的に渡辺のサポートをさせてほしい。渡辺の船に俺も乗るつもりだ」

「まじか?さすが礼くん。君がサポートしてくれるなら心強いよ」

俺たちは堅く握手を交わした。

そこからが俺の第二の人生の始りだったというわけだ。

ありがたいことに、俺を慕ってくれていた後輩たちが皆こぞって退職し俺の元にやってきてくれた。

守るべきもの。

守らなくてはならない大事な社員たちのために、俺はなるべく目立たぬよう会社を大きくしていった。

出る杭は打たれるものだが、その存在を消していれば打たれもしない。

あの一件から学んだ俺の収穫だった。

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それなのに、俺は今藤都をこの場所に連れてきてしまった。

迂闊すぎる。

あんなに強情でどこまでも食いついてくる女だとは思いもしなかった。

勘はかなりいい方だが、時折強気な中に見せる弱い部分が彼女にはある。

まだ俺の方が上手で通せるはずだ。

だが、気を緩めるとさっきのように彼女に取り込まれそうになる。

誠と一緒に寝てしまった時、久しぶりに【あいつ】が夢に出てきた。

しばらく会っていないが元気にしているだろうか。

夢の中で去っていこうとする【あいつ】の腕を掴んだはずが、そばにいた藤都の手を握ってしまうなんて。

彼女も相当に驚いていたが、俺も相当に焦っていた。

なんとか平静を装えたが、今でも彼女のか細い腕の感触が手に残っている。

そして、彼女の髪の甘い香り。

だめだ。男って性分はこういう時いけない。

なんとか理性を取り戻さなくては。

彼女の存在は意識するな。あくまで自分のペースを貫かなければ。

元々彼女からの取材も断るつもりなのだから。

彼女には守りたい仲間がいると言っていたが、そんなことにいちいち気を取られていたら俺の仕事は進まない。リスクが増えるばかりだ。

腕時計に目をやると、まだ午前二時。

夜はまだ長い。リビングで少し休むか。きっと藤都もなんだかんだ言ってソファーで眠りこけているだろう。

俺は月明かりに照らされて長く伸びた自分の影を踏みしめながら、玄関の扉を開けた。