でも、こんなに静かな場所で会話もなく二人でじっとしているのはどうも耐えられない。

例え寝れなくても寝ると言えばよかったと今更後悔する。

「あの……」

「なんだ?」

とりあえず沈黙に耐えられなくなった私はスマホを眺めている彼に声をかけてみる。

「咲さんがポットに用意して下さってるコーヒーでも入れましょうか?」

気の利く咲さんは、夕食後すぐ飲めるようにとコーヒーを沸かしてポットで保温してくれていた。

本当によくできた奥様だ。私とは対照的なくらい家庭的で。

「そうだな。眠気覚ましにもらおうか」

彼はそう言うと、スマホをテーブルの上に置いた。

キッチンに用意されていたコーヒーカップにポットからコーヒーを注ぐ。

まだほんのり湯気が出ていた。

トレーに乗せて彼の元に運ぶ。

彼があまりにじっと私の所作を見つめているものだから緊張して、カップを置く手が少し震えた。

そうだった。

彼は信頼に値する人物かどうか、私の言動を観察し続けているということをすっかり忘れていた。もう既に手遅れだろうか。

私は彼の前にカップを置くと、一礼し自分のカップを持ってソファーに座る。

「なんだ、それ」

私が座るやいなや彼がプッと吹き出した。

まさに飲もうとしていたカップを口から離すと、何か粗相をしたかと首を傾げ彼に視線を向ける。

「何か?」

「今更一礼するとは意味がわからない」

「あ……今更ですよね。すみません」

うっ。今更の一礼は逆効果だったか。

社長の感性に沿うのは至難の技だ。

彼はコーヒーを一口飲み、ソーサーに置くと私の方を見ず言った。

「お前と出会ってから俺は全く落ち着かない。こんなに連続してトラブルに巻き込まれることは未だかつてなかった」

「はい……そうですよね。いつも私が発端というか、その尻ぬぐいを全て社長がして下さっているというか、今回のことを含めて申し訳ないです」

やばい。全くいい印象を持たれていない。

でも、言い訳のしようもない状況に半ばあきらめの境地に陥っていた。