そして突然、掴まれた手が彼の方に強い力で引き寄せられ、彼の顔がすぐ間近に迫る。

ひゃー!

目を閉じたまま、彼が何か言ったようだったけれど声が聞こえなかった。

こんなにも男性の近くに引き寄せられることなんて人生初だから、あまりの緊張に自然と呼吸をするのも忘れている。

頭がぼーっとして、彼のきれいな顔も霞んでいく……。

もうだめだと思った時、彼の目がばちっと開いた。

私も思わず大きく見開いた目で彼の目を凝視する。

青白く照らされた彼の切れ長の目が一瞬歪む。

「お前、何やってんだ?」

はぁ?

それは、こっちのセリフでしょうが!!!

大きな声で言ってしまいそうだったけれど、すやすや寝ている誠くんの存在がそれを阻止する。

私は掴まれた彼の手から自分の手を抜きとり、立ち上がると何も言わずくるりと彼に背を向けて部屋を出ていった。

リビングに戻りソファーに腰を下ろしたけれど、まだ鼓動は速くて呼吸も乱れている。

大きく深呼吸しながら、小さく「一体なんなの?」とつぶやいた。

私を誰かと間違えていたのかしら。

その相手は、きっと……。

そんなことどうだっていいのに、胸の奥がキュッと痛む。

よくわからない胸の痛みに動揺していたら、テーブルの上に置かれたままになっていた彼のスマホのバイブの音に気付いた。

渡辺さん?