たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~

「咲さん、このサラダはダイニングにもっていっていいですか?」

そう言って振り返ると、キッチン台にもたれかかるように顔をゆがめている咲さんがいた。

「咲さん?!」

すぐに駆け寄ると、咲さんはお腹をさすりながら「こんな時に陣痛が始まっちゃったみたい」と私に言った。

「え?え?!ど、どうしましょう?」

初めての状況に私も頭がパニックになる。

さすが二人目とあって、咲さんは痛みをこらえながらも冷静に私に言った。

「いつこうなってもいいように全て準備は整ってるから大丈夫。申し訳ないけれど、主人を呼んできてもらえるかしら?」

「は、はい!」

私は言われるがまま、急いでダイニングで彼とくつろいでいる渡辺さんの元へ向かい咲さんの状態を伝えた。

「そうか!すぐ用意する。礼くん、申し訳ないが病院まで咲を連れていかなくちゃならくなった」

「わかった。俺のことは構わないから早く行ってくれ」

「ああ、すまない」

渡辺さんも落ち着いているように見えるけれど、頬が紅潮し先ほどと一変して緊張しているのがわかる。

「おかあーさん!」

一番びっくりして混乱しているのは誠くんだった。

大きな声で力いっぱい泣いて咲さんから離れようとしない。

渡辺さんは誰かの家に電話をかけているが、なかなかつながらず焦った様子で「まずいな」と顔をしかめている。

「どうかしたんですか?」

尋ねると、咲さんの陣痛が始まったら、誠くんがよく懐いている近所のマリアおばさんの家に預けることになっていたけれど何度かけても電話に出ないらしい。

「たまに、自分の娘さんの家に帰るんだけど、ひょっとしたら週末だし帰ってるのかもしれないな。病院までは結構距離があるし、食事する場所もベッドもないから誠を連れていくと正直かなりやっかいなんだ」

「しょうがないわ。誠には一緒に病院でがんばってもらいましょう」

咲さんは渡辺さんの背中に手を当て笑顔で頷いた。

「咲さん!」

また私の悪い癖が出て、気がついたら考えるより先に咲さんの名前を呼んでいた。