たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~

先ほど飲んだクラフトビールを製造しているのは、渡辺 大地(わたなべ だいち)さん 三十八歳。

「久しぶりだね、礼くん」

この錦小路社長に向かって「礼くん」と言えるのは、彼の母親か渡辺さんくらいじゃなかろうかと思う。

渡辺さんは丸くて人懐っこい笑顔が特徴的な人で、よれよれの白いTシャツを着て出迎えてくれれた。

そのやんわりした雰囲気を見ただけでは、彼が言うとてつもない根性と勇気があるかどうかはまだわからない。

「おや、そちらの女性は?」

日に焼けたまるっこい顔が、彼の後ろにいる私に向けられる。

「初めまして。藤 都と申します」

「初めまして。えらくかわいいお嬢さんだね。まさか礼くんのフィアンセかい?」

「いえ、それは……」

「あるはずないだろ」

遠慮がちに首をすくめていた私の前で、バッサリと無表情の彼に切り捨てるように言われた。

まぁ、あるはずないですけど。

そんなはっきりと言わなくたっていいんじゃない?

一応私も女性なんだし、もう少し気を使ってくれてもいいのに。

その言い方にムカムカする気持ちと、ああ、やっぱり彼にとってもあり得ないんだなっていう気持ちが心の奥でモヤモヤと絡み合っていた。

「では、礼くんの秘書さんとか?」

「まぁ、そんなとこだ」

まぁ、そんなとこでしょうねぇ。

実情を話し出すと長くなりそうだし、これはこれでいいかと納得することにする。

「突然、私までお邪魔してしまい申し訳ありません。先ほど渡辺さんのビール飲ませて頂きましたが、常温であれだけおいしいビールは初めて飲みました」

「へー、もう飲んでくれたの?こんなかわいらしいお嬢さんにおいしいなんて言ってもらえたら純粋に嬉しいな」

渡辺さんは頭を掻きながら、嬉しそうに目じりに皺を寄せた。

「礼くん、藤さん、よかったら夜、うちで食べていきなよ」

「晩御飯なんていいのかい?今日は奥さんは?」

「礼くんが来るって行ったら大喜びでね。既に晩御飯の準備に精を出してる」

「そうか。奥さんには来るたびに世話になるな」

「いやいや。礼くんはおいしい酒を持ってきてくれてるんだろう?いつも一緒に飲むのを楽しみにしてるんだ。こちらこそいつもありがたいよ」

彼はそう言った渡辺さんに微笑み、その肩をポンポンと叩いた。