はぁ。

ベルギーから帰ったら、きっと山根編集長にこっぴどく叱られるだろう。

あれほど一人で無茶はするなと言われていたのに、一人で社長についてベルギーに行っちゃうんだから。

よし!

こうなったら絶対に取材を確約させて頂くわ。そのためにも、まずは社長の機嫌を損ねないようにしなくては。

そして、私自身と私たちのチームを信用してもらわなければならない。

私は自分の頬をぱんぱんと叩き、胸にぐっと握りこぶしを押し付け、そして夜空に向かって人差し指を立てた。

これが私の気合の入れ方。

時計を見ると、もう二十二時前。明日の朝は早いからそろそろ支度して寝なくちゃ。

ベランダからリビングに戻り、玄関横の客室にバッグを持って向かった。

部屋は、まるで上質のホテルのように広くて整然としている。

十畳ほどの洋室で、窓際にベッド、そしてベッド脇に新しい衣類が入ったタンス。

大きなクローゼットの中にはスーツケースがちゃんと入っていた。

さすがにこんなにきれいに部屋を保つのは社長には不可能だ。きっと家政婦さんができた人なんだわ。

私は手早くスーツケースに必要なものを詰めると、着替えを持って恐る恐るバスルームに向かう。

バスルームには、いつの間にかバスタオルが用意されてあった。

これも、用意周到な家政婦さんがやってくれたのかしら。

あのいつも冷淡な視線の社長がこんな気遣いができるわけがない。

ま、いいや。

小さく「お風呂、頂きます」とつぶやき、バスルームを使わせてもらう。

こんな広いマンションで一人なんて、彼は寂しくはないのかしら。

彼女がいたりするのかな。

あんな社長と結婚する女性はどんな人なんだろう。きっと資産目当てか、相当な変わり者だわね。

広いバスタブに贅沢に足の先まで伸ばし、ズブズブと顔の半分までお湯に埋めた。