まさか……

まさかだよね?映画のワンシーンじゃあるまいし。

岡山さんがカウンターにグラスを取りに行った時に、私のグラスにだけ何かよからぬものを入れたりなんか、そんなことあり得ないよね?

手の先までやってきたピリピリと細かいしびれのせいで、うまく手も動かせなくなってきた。

やばい。

必死に目に力を込めて正面に座る山川さんをにらみつけた。

山川さんは「どうしたの?」ととぼけた様子で私に尋ねている。

横にいる岡山さんは不気味すぎるくらい表情のない顔でじっと私を見ていた。

その時、誰かの電話の着信音が鳴る。

霞んだ先にようやく見えたのは、山川さんが慌てた様子でスマホを耳に当て誰かと話している姿。

「まじか?」

確か、そんな言葉を発したような。

がさがさと慌てた様子の二人の動きがぼんやりと見えている。

「おまえら、何やってんだ!」

二人の声ではないほかの誰かの、もっと迫力のある低音の声が響いた。

誰?

誰……か助けて……。

意識が薄れていく。

ゆっくりと、誰かの声と誰かの熱い腕が私の体を覆うような感覚と一緒に……。