眼下に広がるキラキラとした街の灯りといつのまにか高く上った月が更に明るく私たちを照らしている。

「お前には会う度に驚かされる。全く恐れ入ったよ」

「あの……礼さんは太東出版に対抗するためにさっき私にプロポーズを?」

そう尋ねた声が震えた。

彼からの不意打ちプロポーズはリスクを回避するためのもので、私と本当に結婚したいからじゃないかもしれない。

私は、彼と離れたくないっていう思いが根底にしっかりあっての独りよがりなプロポーズだったけれど。

いくらなんでも出会ってから結婚を決めるには早すぎるもの。そんな大事な決断を人一倍慎重な彼がするはずがない。

それに、彼みたいに世界を股にかけているようなハイレベルな男性が私みたいな女性と結婚だなんて、やっぱり天地がひっくり返ったってあり得ない話だ。

夜景を黙って見つめていた彼の視線がゆっくりと私に向けられる。

彼の瞳は月明かりが反射して潤んでいるように見えた。

「お前がもし、今回のことで俺から離れていったら……という思いが一瞬過って気がおかしくなりそうだった。余計なことは考えず俺を信じてくれ。もう一度言う、俺と結婚してほしい」

いつも自信に満ち溢れている彼の、こんなに不安な目の色を見たのは初めてだった。

「でも……」

そう言いかけた私の唇が彼に塞がれる。

これは夢だろうか。例え夢であったって私は彼とずっと一緒にいたい。

私の気持ちを推し量るような優しい、優しいキスがいつまでも続く。