私は急いで玄関のハンガーにかかっていた藤色のカーディガンを羽織ると、白いスニーカーを履き玄関から外に出た。

外の空気はまだ少しひんやりとして、大きな明るい月が正面に光っている。

まだ満月とまではいかない未完成な月を見ながら階段を静かに降りていく。

そして、停まっている彼の車にそっと乗り込んだ。

「急に悪かったな」

「いえ、大丈夫です」

車内は暗くて、いくら明るい月が外を照らしていたとしても、彼の表情ははっきりとは見えない。

エンジンがかかると、サイドミラーに映るアパートはゆっくりと小さくなっていった。

月曜の深夜の住宅街は、さすがに人気はなくしんと静まり返っていたけれど、坂道から見下ろした先の街の光はまだゆらゆらと瞬いていている。

それにしても、彼は急にどうして呼び出したりしたんだろう。

なんとなく聞きづらくて、とりあえず今日無事雑誌が発行できたことへのお礼を伝えた。

「そういえば、今朝お前のボスからも電話が入っていた」

「今日だけでも驚くほどの売り上げで、評判も上々です。本当にありがとうございました」

「俺というよりお前の文章力だろう？都もお疲れだったな」

そんな風に普段褒めない彼から褒められると気恥ずかしくてどんな顔をすればいいのかわからなくなる。

車はしばらく明るい街の真ん中を突き進み、そこを抜けると山道へ続く道に入っていく。

そして、真っ暗な山道をうねうねと登って行った先に整備されていない広い場所に出た。

車はその場所に静かに停まる。

「降りるぞ」

そう言った彼は先に車を降り、私のいる助手席の扉を開けてくれた。

「社長からまるで社長みたいな待遇を受けてますね」

長身のクールな彼が扉を開けている様子に違和感があったけれど、それがなんだかチャーミングでくすっと笑ってしまう。

「つまらないこと言うな」

礼さんは苦笑すると、私の頭を握りこぶしで軽くこつんとした。