その瞬間彼の唇に強く塞がれる。

そのまま彼の手が私を求めるべく、ワンピースの脇についているチャックに伸びる。

え?え?

だって、さっきまでここに澪さんがいたわけだし、まだ澪さんは部屋で起きてるに違いないわけで。

思わず彼の手を制し、尚も求めてくる唇から逃れた。

「どうした?」

彼のその甘く柔らかい声が静かに聞こえる。

「あの、まだ澪さん起きてると思いますし、こんな場所じゃ……」

すると、ふわっと私の体が浮いたかと思うと、彼にお姫様だっこされていた。

「え?」

「ベッドルームに行く。その方が都も安心だろう?」

「そんな。もう少しここでゆっくりしても……」

「悪いがもう待てない」

彼の切れ長の目が私を捉える。狐に睨まれたウサギのように私の体は電気が走ったかのように動けなくなる。

だけど、そんな彼の言葉も目も、逆らえないことに対する不満なんて一つもなかった。

むしろ、とても甘美な気持ちになり彼の意思に身をゆだねたいとさえ思ってしまう。

今までの私だったら、こんなに高圧的なことを男性に言われたりしたら激怒してただろう。

彼は特別だった。

彼だから許せた。

だって、彼を愛してしまったから。

彼はベッドルームの扉を静かに閉めると、私をダブルベッドの上にゆっくりと横たわらせる。

そして、私を真上から見下ろすと、そっと私の前髪をかき上げた。

「会えなかったこの三週間がどれほど苦しかったかわかるか?」

カーテンの向こうから洩れる月明かりが彼の瞳を微かに照らしている。

彼の顔がゆっくりと近づき、唇が優しく塞がれる。

「愛しくておかしくなりそうだ」

私の耳元に彼の唇が触れ、吐息と一緒にそう言った彼の背中をぐっと掴んだ。