彼から、原稿は全て社内の人間にも知らせていない彼直結の個人メールでやり取りしてほしいと、事前にアドレスを教えてもらっていた。

編集作業中は全て電話ではなくこのメールアドレスで連絡をとってほしいと言われている。

それが一番リスクが少ないと彼は言っていた。

彼は、自分と関係が近くなることで私に何か危害が及ぶのではないかということを恐れている。

そんなことあるはずがないと思っていたけれど、山根さんからの話でそれはあり得ない話ではないのだと気を引き締めた。

彼と毎日でも会いたいしメールだけでしか繋がれないのは寂しいけれど、今はそんな甘えたことは言ってられない。

私はその日から一人会議室に籠り、彼の記事を書くことに没頭した。

何度も書き直し、修正し、構成を変更し文章を推敲する。

伝える人のためだけじゃなく、出てくれる本人のことを思って書くことがいかに大変なのかということを今更ながら知ったような気がした。

これまでの私は色んなことに甘えていた。

こんなに深く考えてリスクを想定して言葉を選んだことはなかったのかもしれない。

たまに私の様子を見に来る坂東さんが何も言わずチョコレートを机の上に置いていってくれた。

チョコレートってこんなに甘くておいしかったっけ。

いつもは控えめで前に出てこない由美も、私が席を立ってる間に私のノートパソコンの横にお茶を淹れてくれている。

そんなさりげない皆の気遣いが嬉しかった。

このチームを繋ぐためにもあともう少し。

何度も山根さんに原稿チェックしてもらい、ようやく入稿にまでこぎつけた。