顔を上げたその瞬間、爽やかな香りと共に彼の大きな体に抱きしめられる。

「し、社長?」

完全に彼の胸に顔がうずまってしまっている状況の中で、この事態を理解しようと頭をフル回転させるも全く頭が働かない。

それでも、彼は更に強く私をその熱い胸に抱きすくめた。

「都、明日は仕事か?」

「は……い」

「俺のマンションから出勤しろ」

「え?」

彼の鼓動が激しく私の体に伝わってくる。

その意味を咀嚼する間もなく、私の唇は彼の熱い唇に塞がれていた。

イタリアで雨宿りした時にされた柔らかい優しいキスじゃなく、もっと私の奥底に届くような一つになるようなキス。

どうしていいかわらかない。

だけど、私は今誰よりも彼が好きだと自負できる。

彼とならどうなったっていいって。

私は彼の本心を探るようにゆっくりとその背中に自分の腕を回した。

彼の唇がようやく離れ、至近距離で彼のきれいな顔が私の目の前にある。

どうしようもないほど、私は彼に恋してる。

涙がこぼれそうになるのを堪えながら彼の目をじっと見つめ返した。

「ずっと我慢していた。都、お前が好きだ」

信じられない。

頬をつねるにも彼に抱きしめられていてできないけれど、これが夢なら人生最高の夢だ。

「私も……好きです」

恥ずかしすぎて思わず彼の真っすぐな瞳から視線を落とす。

「こんな俺でも?」

視線を落としたまま答えた。

「そんなあなただから好きなんです」

彼が再び私を強く抱きしめた。

「……都が欲しい」

初めて耳元で聞くドキドキするようなセリフ。どうすればいいの?

ただただ恥ずかしくて体が震えて何も答えられない。

「例え、お前が嫌だと言っても選択肢は一つしかない」

彼は私の唇を塞ぐと甘くとろけるようなキスをした。

そして彼の熱い大きな手が私の首から胸へ降りてくる。

怖かったけれど、彼の優しさが伝わる手や指の動きが私の体の中心を徐々に熱くしていった。

愛し合うってことは、なんて素敵ですばらしいんだろう。

こんなにも誰かに自分をさらけ出したことなんて今までなかった。

慣れない私をゆっくりと何度も愛してくれる彼がまさかあの錦小路社長だなんて。

きしむベッドの音を聞きながら、彼の吐息を聞きながら、自分の半分はまだ信じられないでいる。