17.あなたがいれば

「飲むか?」

彼は冷蔵庫から取り出した缶ビールを私の前に差し出した。

こんな状況だもの。飲んでないと平静を保てないと思った私は頷き彼の手から缶ビールを受け取った。

一瞬触れた指と指が熱い。

こんなにドキドキするなんて、意識しすぎだ。

彼は単に家の方がゆっくり話ができると思っただけかもしれないのに。

私は缶を開け、冷えたビールを口元に流し込む。

彼はリビングの窓に向かって立ち、ビールを飲んでいた。

きっと彼の視線の向うには美しい夜景が広がっているんだろう。

今、何を思ってその夜景を眺めているの?聞きたいけれど聞けない。

「都」

夜景に視線を向けたまま彼がいきなり私の名前を呼んだ。

「はい」

慌てて、口元につけていた缶を膝の上に下ろし返事をする。

「俺のことを書いてくれるか?」

え?

私は聞き間違いかもしれないと思い、ごくりと唾をの見込み姿勢を正した。

「お前も知ってるように、俺は今まで誰かに自分のことを書いてもらったことはない。その中に俺の足元をすくう内容が少なからずとも書かれる恐れがあったからだ」

彼はようやく私の方に体を向け、甘く美しい瞳で私を捉える。

「お前が必死に俺に伝えた言葉から、己の弱さに気づかされた。都が言ってくれたように、俺という人間の生きた証がひょっとしたら誰かの救いになるかもしれない。マスコミを遠ざけていたのは正直俺の逃げでもある。いつまでも逃げきれるものでもないし、例えそこにリスクをはらんでいたとしてもそれを引き受ける覚悟さえあれば守れるはずだ。お前の編集者としての強い気概を信じて託してみたい。引き受けてくれるか?」

「引き受けてくれるか?だなんて。もちろんです!私が書きたいんです、錦小路社長のことを」

私は飛び上がって喜びそうになる自分を必死にとどめてその場に立ち上がり頭を下げた。