バーテンダーにバーボンを頼む。

俺に気づいているはずの都は、何も声をかけてこない。

一体なんだ?大体、この場所は俺のテリトリーだ。

どうして、お前がここに来ているんだ。

黙っている都に前を向いたまま声をかけた。

あいつはまさか俺に気づかれていないと思っていたのか、体をビクンと震わせて驚いている。

ったく、俺を誰だと思ってるんだ。

まともに顔を確認しなくたって誰だかくらいすぐわかる。

でも、そんなところも今はかわいいとさえ感じていた。

しかし、ここで甘い顔はできない。自分をしっかり律すると彼女に「全て終わったはずだが」と言う。

なぜだか彼女は一気にグラスのビールを飲み干すと、俺に体を向けて「終わってません」とはっきりした口調で言い放った。

まだ話さなくてはならないことがあると言う。

本当にあきらめの悪い奴だが、相変わらずな真っすぐな瞳と強気な口ぶりにあきれるを通り越して興味深いとさえ思った。

とにかく、ここで出会ってしまったからには、都の話を最後まで聞いてやらないことには何も終わらない。

これで最後だと彼女に言いながら、自分にも言い聞かせた。

だが、彼女の話を聞いているうちに、都が俺の想像していた以上のことを感じ取り、彼女自身の仕事への情熱が更に増していることに気付く。

まっすぐな性格は何一つ変わらないが、彼女は明らかに最初に出会った頃の都ではなかった。

あいつは「自分を変える」と断言していたが、こんな短期間に有言実行できた奴にお目にかかったことはない。俺ですら無理だろう。

自分の使命は、読者に伝えるだけでなく、取材した人の存在の証をしっかりと残したいと彼女は言う。

俺の言葉だけでなく、俺が存在したという証を都が残したいと言うのだ。

そんな風に誰かに言われたことは初めてだった。

都にとって、それほどまでに俺という人間が書き記す価値のある存在なのか?

「あなたの代わりは他に誰もいないんです……」

そう言われた瞬間、俺の中に封じ込めていた何かがものすごい力であふれ出す。

今すぐにでも都を抱きしめてその小さな唇を奪いたくなるほどに愛おしくてたまらない。

そんな風に俺のことを思ってくれていることに、嬉しいとも違う、感動とも違う、言葉にならない高揚した感情が胸の奥に膨らんでいく。

間違いなく都は俺の心を動かしていた。

そして気付いた時は、「都の代わりも他に誰もいない」と俺の感情が口からこぼれる。

更に「俺のうちにこないか」とまで。

俺の暴走は完全に制御不能の域になっていた。先のことはどうでもいい。

例えそこにリスクが存在していたとしても、彼女を手放すよりも最悪なことはこの世には存在しないように思えた。

今すぐ彼女が欲しい。

彼女のそばにずっといたいと祈るような気持ちで都を見つめていた。