さすがにベルギー帰りの翌朝から五件もの重要な取引先との打ち合わせを入れたのは失敗だったのかもしれない。

米倉の前では気丈なことを言っていたが、昼食をとった後、思わず車中で微睡む。

普段日中眠くなることなどないのだか。

そんな時、米倉から電話があった。

都が受付に来たという。

確かに米倉からあいつの上司には取材の手配の件は話したはずだし、恐らく都も聞いているはずだ。

もうそれ以上俺に関わるなと言ってるようなものなのに、どうしてわざわざ俺に会いに来る?

全く訳がわからない。

しかし、彼女が俺に会いにきていたというだけで車窓に映る自分の顔がほころんでいるのに気づき、慌てて頬に手を当て表情を戻した。

何考えてるんだ、俺は。

あわよくば会いたかったなどと、不謹慎にも思っている。

ひょっとしたら俺が帰ってくる頃にビルの下で待ち伏せなんかしてやがるんじゃないかなどと。

そんな訳ないか。

俺が何時に帰るかなんて秘書も知らない。俺自身も何時に帰れるかわからないわけだし。

こうやってすれ違いが続けばいつかは忘れられる。

しばらくは仕事に没頭するか。

あいつの近況はそのうち渡辺から情報が入るだろう。

いや、待て。まだ都の近況を知りたいみたいじゃないか。

いい加減目を覚ませ。

「社長」

運転手の庄司が俺の方を振り返った。

「トーキ物産に到着しました」

「あ、そうか。ありがとう」

俺は足元に置いていたビジネスバッグを手に取り車を出る。

そして、一度咳ばらいをし緊張を取り戻すと、トーキ物産のビルの入り口に向かった。