しかし、今ここで謝ることが正しいのか?

謝るくらいならしなければよかったのにと、都の性格上そう思うに違いない。

そして、さらにその謝るという行為が彼女を傷つけることになるやもしれない。

もしくは、俺の本心を打ち明けるべきか。

……いや、それはできない。

俺みたいな人間がまとわりつくなんてことは、彼女のこれからの仕事人生に負担をかけかねない。しかも俺の嫌いな出版社で仕事をしているんだからな。

色んな思いが交錯し、俺としたことが気の利いた彼女への言葉が全く思いつかない。

俺は額に手を当てたまま、足元を見つめるしかできなかった。

「……社長」

頭を抱えていると都が横で小さく俺を呼んだ。

視線を向けると、さっきまで涙でいっぱいだった瞳はすっかり乾き普段のようにキラキラと明るく笑っている。

彼女に何が起こっているのかわからず、その笑顔に戸惑う。

「これが男の性ってやつなんですね。二回目なので十分よく理解できました。また私がスキ見せちゃったせいですね、すみません」

この間……そうか、俺が渡辺の家で押し倒した時か。

そういえば、俺も動揺していて何を言ったのかよくは覚えていなかったが、そんなことを都に話したかもしれない。

いや、でも、今の状況は間違いなくこの間とは違う。

都のスキではなく、俺のスキだ。

これほどまでに自分が制御できなくなる相手は今までにはいなかった。

しかもこんな短期間に。

都の気丈な笑顔は、俺への気遣いに他ならない。

俺は何も言えず、ただ唇を噛むしかなかった。

……最悪だ。