たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~

私はドキドキする胸を押さえて彼の方を見ずに頷く。

だめだだめだ。意識すればするほど顔が熱くなっていく。

そんな妄想にドキドキしてるなんて知ったら、そんなリスクは微塵もないって彼にあきれられるだろう。

「とりあえず部屋に行くか」

そう言った彼は私の荷物もすっと持ってくれた。ここは、甘えておいた方がいいんだろうか。

お礼だけ言うと彼に任せることにした。

周りから見たら、私達ってカップルに見えてるのかもしれない。

こんなに不釣り合いなのに……。

部屋のある三階につき、ルームキーを差し込み重たい木製の扉を押し開けると、今日まで宿泊していた洗練された高級ホテルとは違って、暖かみのある木の柱と明るい黄色の漆喰壁が私たちを迎えいれた。

この小さな自然にあふれた町にふさわしい空気感があって私はどちらかといえばこのホテルの方が好きだった。

室内はさほど広くはなく、小さな丸テーブルとアンティークのひじ掛け椅子がニ脚。

大きなダブルベッドが部屋の真ん中に備えられている。

ソファーもなく、もちろん簡易ベッドが置けるようなスペースはなかった。

「……まじか」

さすがにその部屋の様子に、彼も顎に手をやり困惑した表情になる。

「私、あまり寝相は悪くない方なので、隅っこの狭いスペースさえあれば大丈夫です。社長はゆっくり寝て下さい」

だって、彼も疲れてるんだもんね。

疲れている上に、ダブルベッドだなんて、いくら私に色気がないとは言え落ち着かないだろう。

ソファーがないことも彼にとっては誤算だったに違いない。

「俺に気を遣ってるのか?」

彼がちらっと私に視線を向ける。

あ、そんな気遣い無用だった?

「あ、いえそういう訳では……」

「今回は俺の失敗だ。なんとか自制するから気にするな」

「はい……」

って、はい??

今「自制する」とか言わなかった?

どういうことですか??自制って、自制って……もしかしたら私に対してそういう気持ちになる可能性があることを意味している?

いや、まさかね。きっと聞き間違いだ。

私なんて、そういう対象になんかなるはずがないもの。

額に変な汗がにじんだので、手の甲を当てる。

そんな焦っている私の気持ちなんて彼は微塵も気にも留めない様子で、手にしていた二人分の荷物を部屋の隅に置き、涼しい顔でひじ掛け椅子に腰を下ろした。

やはり私の誤解だったのだろうと少し安心する。