たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~

彼は渡されたルームキーをフロントマンに見せながら、何やら強めの口調で言っている。

でも、フロントマンは苦笑しながら「Sorry」と言って首を横に振るだけだった。

彼がようやくあきらめた様子で私の方に顔を向ける。

「一部屋しか空きがないそうだ。二人は恋人でも夫婦でもないから別の部屋にしてくれと頼んだが無理だった」

「へ?」

「どうする?」

どうするって、私に聞かれても。

「他のホテルを当たってもいいが、今はハイキング客が多くてどこもあまり部屋に余裕がないらしい」

「でも、もうどうしようもないんですよね……」

彼はため息をつきながら前髪をかき上げた。

「俺の読みが甘かったな。昨晩のうちにホテルの手配をしておけばよかった。すまない」

珍しく、彼は神妙な面持ちで私に頭を下げる。

私が勝手に着いてきてるだけで、彼が悪いわけじゃないのに。

ここで私がごねるわけにはいかないよね。他のホテルを当たるっていっても、もう夕方だし、彼も相当疲れているのは一目瞭然だった。

「いいえ。大丈夫です。私が勝手に着いてきたばっかりにこんな事態になってるんですもんね」

「いいのか?」

そう言って彼が私に向けた視線があまりにも色気を湛えていたので、動揺して思わず目を逸らしてしまう。

だって、「いいのか?」だなんて、そういうことになるかもしれない……的なリスクをはらんでるんだぞ、みたいな意味だと一瞬受けてしまったから。

リスク、リスクって彼に叩きこまれたせいで、あるはずもない妄想が膨らむようになってしまったみたいだ。