もし、仮に俺があいつとそういう関係になったとしたら?

恐らく互いにいいことは一つもないだろう。

俺はこれまで毛嫌いした雑誌に出ることになり、俺自身を大勢の目にさらけ出すことになる。

そうすれば必ず俺の粗を探す奴が出てきて、仕事の邪魔になるだけだ。

そして、一歩間違えれば会社を潰しかねない事態をも引き起こす。

藤都もそうだ。

俺と付き合えば、俺の粗を探す奴らに付きまとわれ、自分のやりたい仕事が思うようにできなくなる。

俺一人よりもリスクが高くなるのは間違いない。

あんな無防備な藤都が、そんな相手たちと戦えないということは一目瞭然だった。

それに、あいつは今自分の仲間を守り、その仲間と成し遂げたい夢がまだまだあるはずなんだから。

俺がここで変にあいつにけしかけたら、あいつの幸せはどこかへ逃げてしまうんじゃないだろうか。

大きく息を吐くと、もう一杯グラスに水を入れダイニングに戻った。

彼女の静かな寝息が時折外から聞こえる虫の音と合間って心地のよい響きを奏でている。

まだ無鉄砲な頃の俺だったら、きっとこんな心配などせず、すぐにでも寝ているあいつを起こして唇を奪っていただろうな。

そんな自分も悪くはないと思いながら、水を少し口に含んだ。

朝まではまだ長い。

窓から覗く月はやはり俺をせせら笑っているようにしか見えなかった。