『あとね。私の予想では彼はかなり忙しい人物だから、自分で原稿を書いたり、もしくはわざわざ取材のスケジュールを取るなんてことしない可能性大だわ。例え取材を受けてもらったとしても、あなたが彼に代わって原稿を書くことになるかもしれない。だから、彼の言葉や仕事に対する姿勢に関して、都が感じたことは全てメモにとっておいて』

彼からの言葉。確かにたくさんあった。

ほとんどが耳の痛い話だったけれど……。

『都のことだからちゃんとメモしてるとは思ったけれど、あまりの彼のカリスマ性に圧倒されてすっ飛んでるんじゃないかと思って。念のためそれだけ伝えておきたくて電話したの』

はい、完全にすっ飛んでました。

彼の存在が自分の中でどんどん大きく膨らんで、ここにいる目的を忘れてしまうほどに。

ダイニングで楽しそうに朝食を採っている誠くんと彼を眺めながら、ふとこの空間が電話の向こうの空間と別次元の世界のような気さえしていた。

そして、この時間がずっと続けばいいのに……なんて思ってしまった自分を慌ててかき消す。

「了解しました。後で原稿に起こせるようにしておきます」

『お願いね。ところで都はいつ帰国するの?』

「一週間の滞在と聞いています。多分来週の日曜には日本に戻ってるかな」

『旅費は?』

「社長が立て替えて下さってると思います。後で莫大な請求がきた時は申し訳ありません!」

『そんなことあなたが気にしなくていいわ。その時はこちらでなんとかするから』

もう「ありがとうございます」も「すみません」も言えないほど申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

『取材を受けてもらえるかどうか如何よりも、きっとあなたにとって貴重な経験になることは確かよ。しっかり彼から学んでらっしゃい!』

明るい声と言葉で締めくくった後、山根さんからの電話は切れた。