プロローグ

「受けて下さるまでここをどきません!」

私は大きく両腕を広げ、彼の前に立ちふさがった。

長身の彼はそんな私を高い位置から見下ろし一瞬眉をひそめたけれど、その口元には不敵な笑みがうっすらと浮かんでいる。

完全に自分が敗者であると理解しながらも、両腕を広げたまま一歩彼の前に踏み出した。

ここで私が少しでも躊躇したら、本当に負けてしまう。

例え目の前にいるライオンに喰われるとわかっていても、私は最後までその信念をつらぬかなくちゃならないんだ。

それしか、残された道はないんだもの。

私は鼻からスーッと息を吐き更に目に力を込めると、彼の形のいい切れ長の目をぐっとにらみつける。

その直後、スーツのズボンに手を入れたままの彼は、身をかがめ私の正面に顔を下ろしてきた。

彼の瞳しか映らないほどの至近距離に思わず体がひるみそうになる。

そんな私の様子を楽しむかのように、彼の端整な顔が僅かに緩むのがわかった。

「では、引き受けるか否かは今後のお前にかけよう」

「っとおっしゃいますと?」

「そこまでの覚悟ができているなら、今日からお前が本当に信用に値する人間か拝見させてもらうよ」

その強烈な彼のオーラに圧倒され息を呑むしかできない私の両腕を彼はそっと掴み下ろした。