「……遅刻、しますよ?」

静まれ心臓!と唱えて冷静を装う事で、必死に抵抗した。

「……知ってる」

そう言った後、サンドウィッチを手に取り、立ちながら食べる支配人にドリップ式のコーヒーを入れてあげる。

ここ四日間、恋人同士みたいなイチャイチャをしてから出勤するのが日課になっている。

職場でふと思い出しては一人でニヤけてしまう事もあり、しっかりしなくちゃ!と頬を叩いて気合いを入れる事もしばしば。

「…明日、もっと手料理が食べたい」

コーヒーを片手に持ち、キッチンに寄りかかるように佇んでいる支配人がサラリと言い残す。

「…気が向いたら考えます。今日も戸締りはして行きますので、先にホテルに向かって下さい」

「了解…、行って来ます」

「行ってらっしゃい」

チュッとリップ音を鳴らし、初めて"行って来ます"のキスをして、支配人は残りの身支度を整えてから部屋を出た。

私は自分の朝食を済ませ、食事の後片付けとベッドのシーツの乱れを直したり、仕事から帰って来た支配人が快適に過ごせるように整えてから自分の部屋に戻る。

制服に着替えながら考える事は、手作り料理や明日の休みの件で、私の頭の中は正に支配人一色。

そろそろ認めるしかない恋心。

何度かキスを交わしたが、全ては支配人の手ほどきに流された行為。

私は支配人が好きです…、好きになってしまいました。

厳しさの裏には優しさがあり、社員にもお客様にも親身になって接してくれて、私の仕事の面倒も見てくれている。

他にも知っている。

冷酷鬼軍曹の裏の顔は甘い物好きで(特にチョコレート)、毒牙に侵されそうな位の色気を振りまき、二人きりの時は滅茶苦茶に甘やかしてくれる人───……