本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~

「はぁっ…」

ランドリーにたどり着き、クリーニング専用ボックスにクロスを移し替えながら溜め息をついた。

あの人、何故あんなにもしつこく私に話をかけてくるのだろうか?たわいもない世間話ならともかく、私自身の事を知りたがっているようで嫌だ。

「アイツには逆効果だったようだな…」

「…うわぁっ」

「人を化け物呼ばわりするように驚くな」

「し、支配人っ!?」

考え事をしながら作業をしていたら、いつの間にか支配人が後ろ側に近付いていた。

「アイツが自分と釣り合わないとひるむと思って、お前を綺麗にしてやったのに…図々しくも余計に声をかけてきたとはな…」

「………?それって、もしかして…?」

「もしかしなくても、ヤキモチだな」

腕を引かれ、支配人の胸にすっぽりと収められる私の頭。

「知ってたか?ナンパな男は目の前の女が落とせそうか無理か見極めて、声をかけるタイプもいる。つまり、お前は簡単に引っかかって落とせそうって見極めされたんだ。
お前、男慣れしてなさそうだし誘われたら流されてくれそうだもんな?」

頭の上から飛んで来る声に反応して、目に涙が滲む。

「そっ、そんな事ないですっ。ちゃんと断りましたから…。それに支配人だって、私の事を流されやすいから簡単に落とせそうって思ってるから、そーゆー考えが出てくるんでしょっ…」

「俺をナンパな男と一緒にするな」

不安な時、周りに不自然ではないように助けてくれる。

涙が滲んでいるのは嫌味を言われているからではなく、私を常に見守っていてくれた事が嬉しかったから。

支配人の胸に額を付けて、背中にぎゅっと腕を回す。

ライトダウンされていて、静まり返ったランドリーには誰も入って来る気配はなく、二人きりだ。

不安だった。

怖かった。

全ての負の感情を消し去るかのように、何も言わずに私の頭をポンポンと軽く叩く。

子供みたいにあやされて私の気持ちが落ち着いた時、「先に支配人室に行ってるから終わったら来い」と言われて、くっついていた身体が引き離される。

去り際に「涙を拭いとけ」とハンカチを渡された。ハンカチからはふんわりと甘い柔軟剤の香りがする。

多分、私が使っている柔軟剤と同じかもしれないと思ったら、支配人と甘い柔軟剤のギャップが可笑しくて一人でニヤけてしまった。