「篠宮は私と一緒に来なさい」

「は、はいっ」

支配人に言われるがまま事務所を出た後は、背中を見て歩く。

背も高く、背筋を伸ばして足早に歩く姿は、とても凛としていて惚れ惚れする。

私のミスの疑いは晴れたが、フロントを解任されてしまったら、私はクビなのかな?クビにしたいから呼ばれたのかもしれない、と嫌な予感が頭を過ぎる。

当ホテルは二月に新規オープンしたが、人員が足りないとの事で、栄転と称し、同じ系列のリゾートホテルより三月から配属になったのは良いが…、

勝手も違うし、ミスばかりしている。

ヘルプに行ったレストランではグラスを倒す粗相をしてしまい、挙げ句の果てにはお客様とぶつかり、皿を割った。

予約をすれば日にちを間違え、コース料理の内容も間違えていた。

肝心なフロントでの仕事ぶりは自分的にはまずまずの出来だと思っていたが、他の社員から比べれば至らない点が多く、足を引っ張っていたに等しい。

そんな私だから、クビを言いつけられても仕方ないと思う。

例えばクビにされたとして、以前に働いていたリゾートホテルに戻れるかどうかを聞いてみよう。あれ……?

覚悟を決め、ドキドキしながら支配人が言葉に出すのを待っていたが…一向に言われない。

それどころか、スイートルームの部屋の事前チェックを一緒にしている。

高級ホテルの最上階よりも1階下の34階に位置するスイートルーム、立ち入ったのは人生初だが、同時に人生最後になるかもしれない。

フカフカなクイーンサイズのベッド、窓から見える素敵な眺望、丸みを帯びた大きなお風呂、その他、全部が特別な部屋。

「よし、問題はないな。そろそろ、鈴木様がお戻りの時間だからフロントに戻ろうか…」

「鈴木様にまた謝るんですか?」

「……そうだな、頭を下げるのには変わらない」

………………?