私が疑問に思っていた件は、やはりダブルブッキングだった。

鈴木様のお部屋に野々原様の予約が重なり、野々原様を違うお部屋に誘導したので、別なお客様のお部屋が足りなくなる。

本日空いているお部屋はエグゼクティブフロアのスイートルームのみ。どうするの、支配人?

「先程の件、篠宮のせいではなかったようだ。ダブルブッキングになっていたぞ。気付かなかったのか?」

フロント裏の事務所にマネージャーを呼びつけて注意を促す。

「申し訳ありませんでした。調べたところ、予約した者の手違いで鈴木様の連泊が昨日までになっておりました。そこに別なお客様を入れてしまったようです」

「ハウスキーパーに指示した時に気付かないから、そういう事になる。部下に任せっきりで確認を怠るから、こういうミスが起きるんだ」

「朝の時点では鈴木様は連泊の確認が取れていましたので、ハウスキーパーにはアメニティとタオル等の交換のみとお伝えしました。その後に発生したミスになります。申し訳ありませんでした」

支配人が叱責する中、何度も頭を下げて謝るマネージャー。事務所の中でパソコンを見つめながら、少し震え気味で目を泳がせている女子社員。

「…大体の事は分かりました。お客様に御迷惑をおかけしてしまうので、ミスがあったら勝手な対処をする前に速やかに報告して下さい。隠し通そうとする程、大事になる」

お互いの意見に納得したのか、支配人は穏やかな顔付きになったと思ったのが束の間…、

「ミスをした本人が謝らず、他人に擦りつける行為は卑劣で最低だ。今回の件で減給されたくなければ、支配人室まで後程来るように!

それから、篠宮 恵里奈は今日限りでフロントを解任する」

と冷酷そのものの睨みを効かせて、言い放った。

事務所内が静まり返り、お客様からの電話のベルが鳴り響いているが社員達は受ける事をためらっている。