本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~

「一条様とはカフェに行ったのに俺の誘いは断るんだね?」

幸田様は私の目の前まで歩き、手に持っていたシャンパングラスを床に叩き付けた。叩き付けられたシャンパングラスは粉々に割れて散らばった。

「篠宮!」

ラウンジの裏側のパントリーから見守っていた一颯さんの声が聞こえたが、出てこないで!と目線と手で合図をした。

「一条様とはバトラーとして御指名頂いた上、業務で同行させて頂きました。例え、一条様とであっても他のお客様の憩いの場であるホテル内のラウンジでお酒を交わす事は出来ません」

「へぇ、いちいち律儀に答えてくれてあ、り、が、と」

幸田様は言葉に合わせるように、私の額に指先でトントンと軽く叩いた。それでも私は毅然とした態度を取り続けた。

グラスの割れた音に反応し、ラウンジで静かにお酒を嗜んでいたお客様がビクリッと驚いた。このままではいけないんだけれど……。

「元はと言えば、篠宮さんが俺を無視し続けて、あの男と一緒に居るからいけないんだよ。別れるんだったら、許してあげるよ?別れるつもりがないなら、もっと暴れちゃおっかな?」

割れたグラスの破片をグリグリと踏みつけて、私の顔に近付いて話をしてくる幸田様。

「篠宮さんだけなんだよね、折角、俺が誘ってやってるのに、俺に媚びを売らない女は。俺が誰だか知っててやってるの?知っててやってるなら、篠宮さんってどうかしてるよ」

「何の事だか存じあげません……」

幸田様、何が言いたくて、一体何がしたいの?私に仕返ししたければすれば良い。……けれども、他のお客様とスタッフに迷惑をかけるのならば私も黙ってはいられない。