本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~

まず初めに幸田様にシャンパンを注いだ後、前菜を提供した。締めくくりのデセール(食後のデザート)を提供するまで、私達は食事をなさっている幸田様のお話を聞きながら、傍に立って居た。

幸田様の大学時代の話や配膳会での笑い話など、話を聞いている限りでは至って普通だった。私が思っていたよりも、親しみ易い方だったのかもしれない。毛嫌いしていた事を申し訳なく感じる。

「ご馳走様でした。篠宮さんと中里さんにサービスして貰って良かった。最高の卒業旅行になりそうだよ」

デセールを食べ終わり、最後のコーヒー一口を飲み干した幸田様は笑顔を見せた。

「篠宮さんと中里さんにプレゼントがあるんだ。来てくれると想定して用意してた、ベルギー産のチョコレート。本場限定品なんだよ」

「お気持ちは有難いのですが、貴重なチョコレートを私共は頂く事は出来ません!」

ついつい受け取りそうになってしまったが、我がホテルでは個人的な贈り物は、一先ずお断りするのがルールとなっている。後々のトラブルを避ける為だ。

「そう固いことは言わずに受け取ってよね?はい!…受け取ってくれないとゴミ箱行きだから可哀想でしょ?」

無理矢理に渡されたチョコレートを手の内に収められる。仕方なく受け取ったと言えば聞こえは悪いが、再度渡されたのでお礼を言った。素直に喜ぶ事が出来たら良かったのだが、幸田様には裏があるような気がしてならない。わだかまりを溶かしつつも、疑いは晴れないままだ。

このチョコレートは支配人室で食べたメーカーの物だった。強いて言えばパッケージは食べた物よりも小さいが、見た目が同じようなので想像するに中身はほぼ一緒なのかもしれない。