「エグゼクティブフロアに予約が取れたんだ。居る間は羽を伸ばさせて貰うから」

ニコニコと笑っている様に見えるが、目は笑っていない様に感じた。ゾクゾクと悪寒がして、私は恐怖感に負けそうになった。

「専用バトラーでは無いにしろ、お願い事がある時は聞いてもらえるんだよね?」

ニヤリ、と笑って私の反応を見ながら話す彼。

「お客様、可能な限りはお受け致します。ただし、ロイヤルスイートルームとは違い、専属のバトラーがお伺いするとは限りません」

「……ふうん、そうなんだ。残念だね…」

すかさず、高見沢さんが返答した。同じエグゼクティブフロアでも、専属バトラーがついているのはロイヤルスイートルームのみ。ロイヤルスイートルーム以外の客室では、フロアにいるバトラーが対応する。対応内容は、例えばクリーニングに出すお洋服をお預かりしたり、ルームサービスの予約やレストランの予約を受けたりする。ロイヤルスイートルームはと言うと、専属バトラーがこの他にも荷物の荷解きから頼まれた買い物、散歩の御相手など引き受けられる事は可能な限りは引き受ける。

「……てゆーかさ、この男の人、邪魔だね。下がってくれるかな?」

彼が迷惑そうに高見沢さんを追い出そうとしたが、頑固として部屋から出ては行かなかった。そんな態度が気に入らなかったのか、「態度悪いよね?ずっと俺を睨み付けてきてる感じがするし。後でネットに書き込みするから!」と圧をかけてきた。それでも高見沢さんは怯まずに立ち続ける。

高見沢さんが出て行かない為に、彼の苛立ちが手に取るように分かる。

「……じゃあさ、ルームサービス頼めるかな?ルームサービスなら篠宮さんにお願いしても良いでしょ?今度は一人で来てよ?」

「ル、ルームサービス…は出来ますが、準備も御座いますので二人でのお伺いとなります」

「ふうん……?二人でなら、中里さんと一緒に来てよ。フレンチのコースを19時にお願いね」

お金を頂く以上は多少の我慢もは必要だとは思うが、優月ちゃんまで巻き込んで良いものなのか?

「かしこまりました」

私が返答に困っていると代わりに高見沢さんがしてくれた。