今まで誤解をしていたが、笑うと目尻が下がって優しく見える。私が思うよりも一条様は接しやすいのかもしれない。

「女社長になる器だから、男に舐められたら終わりなのよ。同等に生きていく為には、泣き言なんて言えないわ。貴方も同じね。自分の芯を曲げない、信念の持ち主。今は男に頼らない時代よ、共に頑張りましょう」

「はい、頑張ります」

一条様は私の手を両手で包み、微笑んだ。

「私が貴方から挑発を受けたと言ったら、一颯も拓斗も笑ってたのよ。私にとっては珍しい人種だから話してみる価値はあるって……」

「……私は支配人や高見沢さんのように優秀ではありません。ただ、お客様と接するのは大好きなので仕事を続けているのです。聞いてお分かりかと思いますが英語もぎこちないですからね、出来る事は限られています」

「あら、自分をそんなに卑下してはいけないのよ。もっと自信を持たなくちゃいけないわ。まだ若いんだから!」

一条様はそんな仕事の話から、若き頃の恋の御相手などを話してくれた。あっという間に二時間位が過ぎてしまったが帰る様子はなかった。

ホテルから着信があったが、一条様は私を帰そうとはしなかった。

「……一颯も心配症ね。貴方はスイートのバトラーのサブなんでしょ?だったら、あの子達に任せて、もっと色んな場所に行きましょうか!」

一条様は立ち上がり、カードで支払いを済ませて颯爽と立ち去る。車に乗り込み、「スコーンの味はイマイチだったけれど、癒しの空間だったわよ」と感想を述べた。確かにケーキandスコーンセットは日替わりで内容が代わるのだが、今日の抹茶スコーンはイマイチだった。

その後は一条グループのホテルを車から拝見したり、一颯さんと高見沢さんにお土産のケーキを購入したりした。気付けば制服のままで公共の場をウロウロしていた。今更、気にしても遅いけれども……。