「何回来ても、豪邸だよね。」

松濤の実家を 見上げて、奈緒は ため息をつく。
 

「大丈夫。俺達も そのうち 地方に このくらいの家 建てられるから。」

翔は言いながら、奈緒を 促して玄関を開く。
 
「地方って。」

と苦笑する奈緒。
 

「いらっしゃい。」


と出迎えたのは 珍しく母だった。

リビングに入りながら翔は、
 

「兄貴は?」

と母に聞く。
 

「子供達 遊ばせてくるって 代々木公園に行ったわ。」

と言った後 クスクス笑う。
 

「何?」

と翔が 訝し気な 顔をすると、
 


「翔、昔から 帰ってくると “ お兄ちゃんは ” って言ったから。」

と母は笑う。
 
「翔さん、お兄さんが 大好きだから。」

奈緒も笑って言う。
 


「樹もよ。しょっちゅう 翔、翔って言っているわ。」

と母も笑う。
 


「仲が悪い兄弟より、良いでしょう。」

と翔は 恥ずかしそうに言った後で
 


「今日 指輪を 注文してきたよ。本格的に 結婚式の準備を しようと思う。」

と続けた。