「じゃあさ、とりあえず、見学だけでいいからね!」



先輩はそう言って、ご丁寧にウインクまでつけてくれる。

俺はまた慌てて反対側へ顔を背けた。


すると、先輩はぴょんと横に飛んで、またまた顔の正面に回り込む。

その表情はさっきと少し異なっていて、どきりとした。


くっ…かわいい…


先輩はその表情のまま、「ね?」と今度は少し甘い声を出した。


この人は自分の魅力の出し方を熟知しているらしい。



俺の心の中にあった壁のようなものが、ボコボコと打ち砕かれるような気がした。



「…分かりました。行きます」



やった!

そう言って先輩は胸の前で小さく拳を握ると、ぱたぱたとさっき吹いていたところへ走っていった。

譜面台を取りに行ったらしい。



そしてホルンと譜面台を両手に抱えたままこちらを振り返り、少し離れた位置から器用に手招きをする。



「おーい、音楽室はこっちだよ」



どうやら奥の非常階段を上った先に音楽室があるようだ。

先輩は俺が歩き出したのを確認すると、先に非常階段を上り始めた。