ふとその耳に際立って入ってくる音に気がついた。


綺麗な音…


遠くて確信はないけれど、この音は多分ホルンだ。

そこそこ強豪の中学校にいたのに、聴き馴染んだホルンの音色とは段違いに綺麗な音色だった。



どんな人が吹いているんだろう…



俺はその音に吸い寄せられるように、校内の奥へと歩みを進めた。


まだ見慣れない景色の中でまだ知らない姿を探すのは、なんだか宝探しのようでわくわくした。



校舎の角を曲がったところで、俺は目の前の景色に息を呑んだ。


視界いっぱいに広がる満開の桜。

校門前の道にも美しい桜並木が広がっていたが、ここにもあったなんて。



そして音の主は、満開の桜の中に居た。

こちらに背を向けて、でもその背中からですら分かるほど、気持ちよさそうに吹いている。


まだ慣れない短い丈のスカートと、猫っ毛なのだろうか、少しウェーブのかかった肩ほどまでの髪をなびかせているのが印象的だ。



さっきまでは離れていて何の曲を吹いているかまでは分からなかったが、今ははっきりと聴こえてくる。

聴いたことのあるこのフレーズは何だったか、他校が演奏会で吹いているのを聴いたことがある気がする。


まだ新入生は入部していないだろうから、先輩なのだろう。

近々演奏する曲なのだろうか。



俺は校舎の陰に隠れて、しばらくその光景に見とれてしまう。


小柄な体から吹き鳴らされる音は、体型に反してとても大胆だ。


ホルンはベルが後ろを向いているから、奏者の背後にいる俺に良く聞こえるのだろうが、それを抜きにしてもまず純粋に音量が大きい。

それでいて、音色が密で濃い。