だって、こういうとき、どうしたらいいかわかんなくなる。
あたしは、思い出なんか作りたくなかったのに。
春は花見をして、夏は海に行って、秋は美味しいもの食べて、冬はイルミネーション見て。
弘樹と過ごした数年間、思い出が詰まりすぎていて、嫌いだ。
あたしの体は心は、とっくに弘樹に侵されていて、この体は、心は、弘樹にしか向かない。
まるで洗脳だ。
最後にあんな優しくして、あんなキスをして、待ってるだなんて、なんて都合がいいんだ。
だけどそれに心が傾いてしまいそうな自分が、一番嫌だ。
ソファに沈むように横になれば、ふわっと苦いタバコの香りがあたしを包む。
テーブルの上に置かれた弘樹の連絡先が残ったままの携帯に手を伸ばしそうになって、グッと堪える。



