『これ吸ったら、行くね』


やけに優しい声音、いつかぶりに愛しそうにあたしに触れるその手はタバコくさかった。

ジッポライターでタバコに火をつける仕草はやたら慣れている。
くわえタバコをし、一瞬あたしのそばから離れたと思ったら、まとめた荷物にどこから持ってきたのか、一つ小さな箱が追加される。


「まだあったの、それ」

『ん? あぁ、そりゃあるよ、日向との大事な思い出だもん』


見覚えのあるその箱の中身は、一緒に住み始めた頃に恥ずかしがるあたしの意見なんか無視して弘樹が買ったマグカップだった。

持ち手のところを合わせるとハートになる仕様だったけど、すぐに弘樹は落として割ってしまった。

よりによってハートの形になるものを割るなんて、さすがとしか言いようがない。もうそのときからこうなることが決まってたのかもしれない

でも割れても日向とおそろいだし、大事だからって、われたマグカップは箱にしまって食器棚の一番奥に追いやられていた。