「あの子が成長してから、益々あの子が分からなくなった。それもこれも全部わたしのせい。
美麗さん、わたしはとても弱い人間なの。自分でも情けない程。
祐樹さんを好きになって彼もわたしを好きだと言ってくれて、西城グループがどれ程大きいものか理解した上で結婚した。
祐樹さんのお母様はわたしにとても良くしてくれた…。けれど、祐樹さんのお父さんの事はどうしても好きにはなれなかった。それどころか憎いとさえ感じて生きてきた…」
祐樹さんのお父さんは、あの人の事だ。
わたしに茶色い封筒を投げつけてきた、まるで慈悲のない瞳を持つような支配者。
あの支配者の眼に、彼女は何十年も囚われ続けたままなのだ。
子供を虐待して良い訳がない。どんな理由があったにせよそれを肯定する気にはなれない。けれど、この人もまたこの西城家の中で孤独に生きた人。
「わたしを庇ってくれない祐樹さんさえ憎んだ。
どうしても祐樹さんのお父さんに似ていて仕方がないあの子さえ。
数か月前にね、あの子わたしの病院にお見舞いに来てくれたの」
「それは…聞いてます…」
あの日の事だ。わたしが西城さんと初めて関係を持った日。
大雨の中彼は酷く傷ついた顔をして、わたしを抱いた。
今となって思っても、あの日の彼は普通ではなかった。
「言ってしまった事は、取り返しがつかないのにね。そんなの分かってるのに…。
わたし言ってしまったの、あの子に
あんたなんか産むんじゃなかったって…。本音なんかじゃなかった…。」



